東京高等裁判所 昭和31年(ツ)29号 判決
不動産売買の仲介を業とする者は、仲介を依頼する者の信頼に答え、受任者として善良な管理者の注意を以て事務を処理すべく、その注意義務は普通人が仲介の依頼を受けた場合に比し格段に重かるべきはいうまでもないのであつて(民法第六四四条、第六四八条、商法第五一二条参照)、仲介業者が不動産の買受希望者より仲介の依頼を受け売買の手附として交付を受けた金員を売主側の代理人と称する者又は斡旋者に交付するに当つては、その者の資格、権限を充分に調査すると共に売主との間に売買契約が有効に成立したかどうかを見届けて然る後に交付するよう注意を払う義務あるものというべきところ、原審の確定した事実によれば、上告人は不動産売買仲介業者として、本件不動産の買受希望者たる被上告人からその売買手附金として交付を受けた金員を売主の代理人と称する三上研次郎に交付するに当り、上記の如き注意義務を怠り漫然同人に交付したところ、同人と売主との間に連絡なく該金員の交付もなかつたため、本件不動産は他に売却せられその移転登記をも完了するに至つたというのであるから、上告人としては右金員を同人より取戻すなどの方法により被上告人に支払うべき義務あるものと解するを相当とするから、原判決には所論のような理由不備ないし理由齟齬の違法はなく、したがつて論旨は到底採用することができない。
(柳川 村松 中村匡)